2013/02/01

企業とイクメンお父さんの味方(?)クラウド・バックアップ/リカバリー


ビッグデータとクラウド・ストレージ」 連載 第九回


トレンド編5: 企業とイクメンお父さんの味方(?)クラウド・バックアップ/リカバリー


エノテック・コンサルティング代表
海部美知


連載第六回のこのコラムで、米国大統領選でのオバマ陣営がアマゾンS3をバックアップ用途にも使い、メインのデータセンターがあるワシントンDC(東海岸)を襲ったハリケーン・サンディに備えて、西海岸にスナップショットを保存していたことを紹介した。

ストレージは、保存データが商材そのものであるようなネットサービスだけのものではない。一般企業や政府・各種団体でも、各種のデータを定期的にコピーして別の場所に保管することで、故障や災害によるデータ喪失にそなえることは、伝統的なデータセンターの役割の一つである。

多くの一般企業でも、扱うデータの量や種類が急増し、データが失われた場合の復旧時間短縮の必要性が増している。一方で、ネットサービスにおける「ビッグデータ」の規模の経済により、機器や部品のコストが全体的に下がり、提供されるサービスも増えた。このため、ネット企業ほどの膨大なデータを持たない企業でも、ニーズとコストの両面で「クラウド・バックアップ/リカバリー」を活用するメリットが大きくなってきている。

調査会社ガートナーによれば、企業ユーザー向けバックアップ/リカバリー・ソフトウェアの市場は、年率6.5%で成長し2016年には52億ドルに成長すると予測している。

今回は、こうした「バックアップ/リカバリー市場」の最近のトレンドを見てみよう。

◆ ハイブリッド化


ストレージ方法の選択肢にはそれぞれ特徴があり、企業のデータ利用状況やストレージの目的などにより、(1)コスト、(2)容量、(3)アクセス速度、の3つの要素のバランスを考慮して選ぶことになる。すぐに取り出して使うトランザクション系のデータなら、コストが高くてもアクセス速度が高い方法を選ぶ。逆に、実際にはほとんど使うことはないが、法律で一定年数の保存を義務付けられ、データを整理保存する「アーカイブ」目的では、アクセス速度は最低限でよく、なるべく安価で大容量の方法がよい。

Express Computer記事によると、「実はバックアップとアーカイブの区別がついていない企業が多い」らしいが、「バックアップ」はデータのコピーを作成し何かあった場合に備えることであり、「アーカイブ」はデータを整理保存することと言える。メインの業務にデータの必要性が高い企業では、データ復旧の速度が重要なので、アクセス速度の優先度がより高く、そうでない場合はコストが優先される。

従来は、どちらかといえばコスト優先のケースが多く、このため伝統的なバックアップは、定期的にデータをテープにとり、メインのオフィスやデータセンター以外の場所に保存する、という形態が多かった。大量のデータを安価に保存するにはテープが最も適していたワケだが、テープの保存管理には手間がかかり、データを復旧するのに時間も手間もかかった。

これに対し、ディスク・ドライブでは、MAIDといった省電力化技術を使わない場合には、ただ置いておくだけの間も電力を必要とするので運用コストが高い。しかし、バックアップもリカバリーもより迅速にできる。データの重要性が高い企業では、テープよりもディスクのメリットが大きい。

いったんディスクに保存し、一定の時期がきたらテープのアーカイブに移すなど、時間軸によって異なる方法を使い分けることもある。

用途によって異なるストレージ・メディアをミックスして利用する「ハイブリッド・ストレージ」が現実となってきている。

◆ 重複排除、スナップショット、クラウド・バックアップ


ディスク・バックアップのソフトウェアでは、データを書き込む時点で、データ圧縮と重複排除(data de-duplication、略してde-dupe)を行うことができることも特徴の一つだ。

重複排除とは、例えば、マネージャーが100人の部下あてにメールを送った場合、100通ではなく1通だけのメールを保存する、というイメージのものだ。これにより、必要とするディスクの量を大幅に減らすことができる。データ量が増える中で、重複排除はバックアップ・ソフトウェアにおける重要な技術要素である。

スナップショットは、ある時点でのデータセットの状態をリード・オンリーで保存したものだ。すべてのデータを完全にコピーしてバックアップするよりも、保存データ量を減らすことができる。またバックアップに要する時間もより短く、バックアップのためにトランザクションを止める必要もないため、「時間」のコストも少なくて済む。

こうした種々の技術で、ディスクの必要量を減らすことができるようになったため、テープより高価なディスクであっても、管理コストや復旧時の手間・コストを含めたトータルROI(投資対効果)ではディスクのほうが勝る、との意見もある。

ここまでは、ディスク・ベースのアプライアンスでも対応できるわけだが、例によってデータ爆発に対応するにはスケーラビリティが必要で、「スケールアウト」ができるクラウドがここでも力を発揮する。データが急増した場合、テープやアプライアンスでは容量の追加が面倒だが、クラウドならば容易にできる。

仮想マシン(VM)の普及に伴い、VMのバックアップ対応ニーズも高まっている。また、モバイル利用のためにアプリケーションの種類も増え、複雑さが増している。

こうしたことから、冒頭に紹介したガートナーのレポートでは、主要なバックアップ・ソフトウェアの機能として、下記のようなものを挙げている。


  • テープへのバックアップとディスクへのバックアップ(ハイブリッド環境で異なるメディアへの移行ができるようにする)
  • データ減量(データ圧縮と重複排除)
  • スナップショット
  • 異機種間レプリケーション(プラットフォームの異なるサーバー・ストレージ・ネットワークが混在する環境で、統一的にデータ複製を管理する)
  • CDP(Continuous Data Protection:継続的データ保護)、すべてのトランザクションでデータが変更されるたびに、コピーを作成してバックアップする)
  • VTL(Virtual Tape Library:仮想テープライブラリ)、ディスクをテープ・ライブラリーに仮想化することで、従来型のテープ保存システムと統合できるようにする)


このように、クラウド・バックアップは利点が多いが、まだ技術としては枯れていないため、大企業ではまだ導入に慎重な向きが多く、本格化するにはまだ半年から一年ぐらいかかるのではないか、とガートナーのアナリストは述べている。このため、クラウド・バックアップは中小企業が先行し、大企業ではクラウドの場合でも「プライベート・クラウド」型を指向するのでは、というのが件のアナリストの見解だ。

◆ 主要プレイヤーと趨勢


ガートナーによると、分散型バックアップ/リカバリーの分野では、シマンテックが最大のシェアを持ち、これにIBM、EMCとCommVaultが続いている。2011年にはEMCとCommVaultがシェアを伸ばした。おなじみのガートナー・マジック・クアドラントで「リーダー」に分類されているのもこの4社で、これに続く「チャレンジャー」として、HP傘下にはいったAutonomyとCAテクノロジーズが挙げられている。



これらは主に大企業向けのベンダーだが、「クラウドにより向いている」と言われる中小企業向けのプレイヤーも数多い。Small Business Computing記事によると、月額料金制で自動的にオンライン・バックアップとデータ保護を行う米国のサービスとして、Carbonite、Crashplan、Mozy、Zettaなどが挙げられている。またSymformは、月額料金の代わりに、自分のデスクトップやサーバーの空き容量を他社が使えるように提供するという、P2P型のサービスである。

例えばCarboniteでは、最も安価なプランは月額59ドルなので、企業だけでなく、「子供の写真やビデオをこまめに撮ってたくさんためているが、自分のパソコンのハードディスクがクラッシュしたら赤ちゃんのときからの思い出がすべてパーになる、困る!」というイクメンお父さんでも十分手が届く。今や個人でも、クラウド・バックアップが可能なのだ。

ガートナーのレポートに戻ると、ベンダー評価の前提として、2014年までに80%の企業ユーザーがなんらかのディスク・ベースのバックアップを採用(現在は半分以下)、2015年までに25%以上が従来型のバックアップ/リカバリーからスナップショットとレプリケーションの方式に移行、2016年までに大企業の45%がオペレーション復旧目的ではテープを完全にやめる(現在は22%)、というシナリオを想定している。

バックアップ/リカバリーも、急速にクラウド化が本格化しつつあるようだ。


海部美知(かいふ・みち

エノテック・コンサルティングCEO(最高経営責任者)。ホンダを経て1989年NTT入社。米国の現地法人で事業開発を担当。96年米ベンチャー企業のネ クストウエーブで携帯電話事業に携わる。98年に独立し、コンサルティング業務を開始。米国と日本の通信・IT(情報技術)・新 技術に関する調査・戦略提案・提携斡旋などを手がける。シリコンバレー在住。子育て中の主婦でもある。ブログ:Tech Mom from Silicon Valley。Twitter ID:@MichiKaifu。 著書に『パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本』(アスキー新書)がある。