2012/10/03

「クラウド」の裾野を支えるしたたかな人たち 箱モノからクラウドへ



イベント・企業編1: 箱モノからクラウドへ ~ ホスティング・クラウド会議 ゆるめの報告


エノテック・コンサルティング代表
海部美知



◆ 「クラウド」の裾野を支えるしたたかな人たち


9月19~20日、ラスベガスで開催された「Hosting and Cloud Transformation Summit 2012」に初めて行ってみた。

私は米国の各種カンファレンスに出席する機会が多いが、行けばそれぞれの業界の個性や雰囲気がよくわかって面白い。今回は、シリコンバレーのテック系カンファレンスとあまりに違うことが印象的だった。

シリコンバレーでは、アジア人・ヨーロッパ人、男性女性が雑多に混ざり、服装はジーンズのビジネス・カジュアル、展示は華やかで先進的なイメージだが、ここでは朴訥な白人男性が背広で集まり、展示も地味な「産業用」だ。これは実は「通信系」によくある空気で、アメリカ全土を面的にカバーするサービスは、こうした雰囲気の地方の中小サービスプロバイダーが裾野を支えている。

アメリカでは、90年代に「長距離ディスカウント・キャリア」や「CLEC(新規参入地域キャリア)」が百花繚乱し、全米で数千社が存在した。その筆頭がワールドコムだったのだが、彼らの多くはいわゆる「マネーゲーム」的な人たちではない。実直な地域密着商売をコツコツ続け、その後業態をいろいろに変化させて生き残ってきたが、その一つがホスティング業界であるわけだ。

そして、これらの地道なインフラストラクチャーの土台が、華やかなソーシャルやゲームなどのサービスを支えている。


◆ 好調なホスティング業界


ホスティング事業は地道なサービスといっても、その商売は順風満帆、というのが会議のトーンだった。2000年代初頭、ネットバブル崩壊で大量な供給過剰となったが、その後順調に需要が増大して在庫解消が進み、現在は「ちょうど需給が均衡している状態」というのが、この分野専門の投資銀行DHキャピタルの見解だ。ホスティング専業事業者の株価収益倍率(EBITDA倍率)は軒並み15~20倍で、堅実な業界としては高評価を得ている。

従来型のホスティングは、いわば「箱モノ商売」であるため、箱がちょうどよい程度に一杯の状態が続けば、安定収益が持続できる。ただ、この先さらに需要(=保存データ量)が急増すると予測されており、箱からあふれてしまう可能性がある。

カンファレンス主催者であるThe 451 Groupの講演では、この先のデータ量急増の要因として「モノのインターネット(Internet of Things, IoT)」と、それを含む「ビッグデータ」が挙げられた。これに対し、正直なところ聴衆の反応は今ひとつ「ピンと来ない」といった様子で、ここでも「ビッグデータの大波だ、データが多すぎてストレージが足りない」というシリコンバレーの切実な雰囲気とのギャップが感じられた。シリコンバレーのような逼迫状況は、まだ地方には及んでいないということだろう。

「モノのインターネット」について解説するThe 451 Groupのリサーチャー、レイチェル・シャルマーズ


◆ 箱モノからクラウドへ


それでも、この波は着実に、徐々に広がっている。

カンファレンスでのThe 451 Groupの講演によると、インターネット・インフラストラクチャーの売り上げは、2010年390億ドルから2013年には680億ドルと、年率20%で成長すると予測している。これらのうち、現時点で売り上げの大きな部分を占めるのは、従来型のマネージド・ホスティングやマルチテナント・データセンターであるが、成長率が最も高いのは「クラウド・コンピューティング」分野で、年率62%の成長を示している。

これら各種のホスティング・サービスの詳細説明については後の回に譲るが、おおまかに言えば、従来型が「箱モノ」であるのに対し、「クラウド」はもっと拡張性が高く、フレキシブルなサービス提供形態である。

ビッグデータの性質は「3V」、すなわち「Volume(物量)」「Velocity(速度)」「Variability(変化性)」とよく表現される。短期で急速に量が変化し、突然バーストしたり、内容が変化したりするのが特徴で、これに対応できるよう、データセンター側も可変性の高い「クラウド」型になっていく必要がある、というのがThe 451 Groupの講演の主旨であった。

カルテック天文学マイク・ブラウン教授のゲスト講演。ブラウン氏による小惑星発見が「冥王星追放」につながったことで知られる。この分野で、どのように文字通り「天文学的」な量のビッグデータを扱って研究を行なっているかの裏話が面白かった。


さらに、データセンター管理の分野においても、単に箱をメンテするだけでなく、上位レイヤーの部分までを意識した管理が必要であるとの議論が興味深かった。例えば、電力管理といった物理的な部分でも、ヴァーチャルマシンの一部で電力が落ちた場合、どの部分に切り替えて立ち上げるかわかっていなければ対応できない。アプリケーションまで視野に入れた総合的なマネージメントが求められてきている。

欧州企業シュナイダーによる、「上位レイヤーを理解したデータセンターの電力マネージメント」の説明スライド


◆ アマゾンの存在感


さて、今度は少々視点を変えて、「クラウド・サービス」というくくりで考えてみると、おおまかに「SaaS(Software as a Service)」「PaaS(Platform as a Service)」「IaaS(Infrastructure as a service)」という3つのレイヤーがある。このうち、ホスティング業界が担当する部分が「IaaS」である。

The 451 Groupの講演では、IaaS分野のほぼ半分のシェアをアマゾンが占めており、圧倒的に強いことが示された。これに、ラックスペース、ベライゾン・ビジネスなどがかなり引き離されてついていっている。(数字は公表されなかった)このため、クラウド・ストレージの業界では、アマゾンのS3(Simple Storage Service)がデファクト標準であると言ってよい。

会議ではアマゾン自身はスポンサーになっておらず、全くプレゼンスはなかった。一方で、多くの講演やパネルでよく引き合いに出され、そこでは「自分たちの主要事業であるマネージド・ホスティングが、アマゾンのS3に侵食されてしまうのでは」という不安が感じられた。上述の「ビッグデータ」に対する懐疑的な雰囲気も、もしかしたらこのことが背景となっているのかもしれない。The 451 Groupはそれに対して「実際には、マネージド・ホスティングとクラウドはそれぞれ得意分野が違うので、共存していくはず」と主張していた。

◆ Cloudianコミュニティ版


さて、このコラムのスポンサーであるクラウディアン社は、このカンファレンスにて、無料版「Cloudianコミュニティ版」を発表した。

Cloudianのソフトウェアを使うと、アマゾン以外のホスティング・プロバイダーや企業ユーザーが、自前でS3対応「アマゾン・スタイル」のクラウド・ストレージ・システムを構築することができる。

「コミュニティ版」では、通常エディションとすべて同じ機能を使うことができ、ストレージ容量100テラバイトまで無料である。

同サービスの詳細については、クラウディアン社のウェブサイトを参照してほしい。


海部美知(かいふ・みち)


エノテック・コンサルティン グCEO(最高経営責任者)。ホンダを経て1989年NTT入社。米国の現地法人で事業開発を担当。96年米ベンチャー企業のネ クストウエーブで携帯電話事業に携わる。98年に独立し、コンサルティング業務を開始。米国と日本の通信・IT(情報技術)・新 技術に関する調査・戦略提案・提携斡旋などを手がける。シリコンバレー在住。子育て中の主婦でもある。ブログ:Tech Mom from Silicon Valley。Twitter ID:@MichiKaifu。 著書に『パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本』(アスキー新書)がある。






Cloudian(クラウディアン)について


Cloudian(クラウディアン)は日本、米国、中国に拠点を持ちグローバルに展開しているソフトウェア開発会社Cloudianグループが開発提供するクラウドストレージを構築できるパッケージソフトウェア製品です。

Cloudianで構築するクラウドストレージは、事実上の標準であるAmazon S3に互換する豊富なAPIを備えており、数百から千種類に及ぶAmazon S3対応アプリケーション、ツール、アプライアンス、サービスを利用することができます。

Cloudianは、「ニフティクラウドストレージ」を始めとするクラウド事業者の商用クラウドサービスに採用されているほか、プライベート、ハイブリッドクラウドにおいても利用することができます。